その独特の雰囲気は、劇場の建物自体からもろに伝わってくる。ホールに入ると同時に目に飛び込んでくるのは、巨大な屋根付の本舞台で、これは、野外で演じられた桃山時代の舞台を忠実に再現したもので、正方形の本舞台と“橋掛かり”からなっている。
“橋掛かり”は能楽師や囃子方の、舞台への単なる出入り口ではなく、登場人物の道のりを示すと同時に、神や怨霊、鬼などが異次元に移るシンボリックな空間、演技の場でもあり、全ての戯曲は、まさにこの“橋掛かり”から始まる。
能は700年近くの歴史を持ち、現在までに約1700曲が残っているが、実際に演じられているのはわずか240曲で、その多くは観阿弥、世阿弥親子によって書かれたと言われている
これら全ての戯曲で主役を演じるのは、シテ(曲の前半は“前シテ”、後半は“後シテ”と呼ばれる)で、シテは、戯曲の演出家でもある。
また、上演に際し、各演目の囃子方、謡い方などスタッフを決めるのもシテの役割で、まさに、シテが独自の曲の解釈に基づき装束、面、小道具類を選び、究極の美、感情、幽玄の世界を追求するのだ。それが、うまくいくか、否かは、多くの点で、まさにシテの技量にかかっている。